毒と私

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毒と私, 幻冬舎, 由井寅子著

22に殺傷事件まで起きたと聞いています。私はその頃はすでに佐田岬には住んでいなかったのですが、もしいたとしたらきっと反対運動に加わっていたと思います。私は、そんな瀬戸町のなかでも、すこぶる貧しい家に育ちました。なぜなら私がこの世に出てくる前、母が妊娠3ヵ月のときに、父が急に病気で亡くなったからです。父はまだ38歳の若さでした。残された母は、祖母と子どもを、女手で育てていく羽目になりました。すでに6歳と3歳の男の子が2人いたこともあり、3人目なんて産んでいられないと思った母は、何とかして私を堕ろそうといろいろな努力をしました。妊娠中に冷たい海で泳いでみたり、重い石を何度も持ち上げてみたり、大きなお腹を自分の手で強く叩いてみたり、とにかくお腹の赤ちゃんに悪いと思われることはすべて試してみたそうです。けれど、私は堕りませんでした。いま思うと、私もなんとかして生まれてきたかったんだと思います。しっかりと母の胎盤にしがみついて、とうとうこの世の中に生まれてきました。無医村だったので、人工中絶は免れたのです。もしお医者さんにかきだされていたら、さすがの私も死んでいたでしょう。生まれてきたものはしょうがないと、母も私を家族に加えてくれました。死んだ父の名が