エグゼクティブ 〔2001・1〕  オルタナティブ医療の現場より ホメオパシー!

「なぜ効くか」は不明
不思議な不思議なサトウ玉のもたらす治療効果

イギリス王室御用達

ホメオパシー医療とはちょっと不思議な医療の話をしたい。
不思議といっても、ヨーロッパではれっきとした医療として受け入れられているもので、ホメオパシーという。

私の目の前に36レメディーキットと書かれたプラスチックの箱がある。箱の中には36の小さな透明の筒が、ウレタンのケースに収められている。そしてその透明の筒には、それぞれに違った名前が記されていて、白い玉が幾つも入っている。 この白い玉がレメディーと言って、ホメオパシーの治療に使われるものなのだが、薬物でもなんでもないただのサトウ玉である。このサトウ玉がさまざまな病を治すというのだ。36のサトウ玉は成分は全く同じなのだが、それぞれ違った効果を持っている。 まるで魔法のような話だ・・・・・。 先に書いたとおり、ヨーロッパでホメオパシーは一つの医療として認められている、それは確かである。なにしろイギリスでは王室のかかりつけは、このホメオパシーの医師なのだ。 一般の話をすれば、ヨーロッパの薬局で売買される薬のうち、およそ30%がホメオパシーのレメディーだということである。日本で言えば、漢方に相当するものらしいが、漢方よりもっと身近なものだという。 最近ではもっとも権威あるイギリスの医学雑誌『ランセット』にこのホメオパシーが取り上げられ、日本の医学界にもセンセーションを起こしている。確かに効果はある、だがなぜ効果があるのかがわからない・・・・・。

ホメオパシーが生まれたのは18世紀のドイツ。サミュエル・ハーネマン(1755〜1843)という医師によって考案される。「同種の法則」と言って、罹っている病気と同じような症状を起こす物質がその病気を治す、というのが最初にハーネマンが発見したことだった。一種の免疫療法のようなものと考えれば分かり易い。 さてここからが不思議で、分かりづらいことになっていくのだが、ハーネマンは病気に効く物質が薄ければ薄いほど効果を発揮することに気づくのである。なにしろ最終的には、「病気に効く物質の分子が一つも含まれない」、というところまで薄めてしまうのだ。さらにハーネマンはそれを振動させるともっと効きがよいということに気づく。 振動を与えながら極限まで薄めた・・・・・、というよりも振動を与えながら極限を超えて薄め、ただの水となったものを含ませたものがレメディー、つまりくだんのサトウ玉である。

日本初のホメオパス

日本でホメオパシーを伝えているのは由井寅子さんという女性。英国ホメオパシー医学協会から認定された初めての日本人ホメオパス(ホメオパシーの医師をホメオパスと呼ぶ)である。 由井さんがホメオパシーと出会ったのは10年ほど前のこと。日本のキー局の特派員としてヨーロッパで働いていた頃のことだった。

「ホメオパシーで体を救ってもらいましたから、私はもうこれじゃないと駄目だと思ってるんですね」 由井さんは33歳の時から潰瘍性大腸炎に罹り、ひどいときは1日15回ほども下血があったという。ステロイド剤などさまざまな薬を試したが一向によくならない。 「潰瘍の部分を切除しなければ治らない。下手したら人工肛門の可能性もあるといわれましてね」

人からの紹介があり、すがる気持ちでロンドン郊外のホメオパスにかかってみた。「30年くらいやっているという人だったんですが、会ってみると素足にゾーリを履いていて、ジーンズにTシャツという姿なんですよ」 まるでヒッピーのような姿の人だった。 「どうしてこの人が医者だろうと思ったんですけどね。怪しい感じですしね」 彼は病状も訊かない。訊くのは彼女の個人的なことばかり。 「実家とか育ち方とか。恥ずかしくて言えないことですよ。彼はまあ恥ずかしいだろうけどなるべく言ってくれって」 一時間のコンサルティング結果くれたのが、「サトウ玉が4個。見た目は同じだから、全部同じもんですよねぇと言うと、いや全部違う。とにかくこれを飲みなさいって。 『一つは砒素だ、一つはガンだ』というから、そんなもの飲みたくないって言ったら、彼は笑って、 『いやそうだけど何にも入ってないただのサトウ玉だからとにかく飲みなさい』って」と由井さんは笑う。

「騙されたと思ったんですけどね。もったいないから飲みましたよ」 ところがその貰ったサトウ玉を飲んでみると、背骨が痛くなり、歩けないほど酷い状態になってしまうのだ。由井さんがホメオパスに電話をしてみると、悪いところが出ているだけで良くなるからまぁ待ってなさいと言われて電話を一方的に切られてしまった。体が裂けるような痛みの中でじっくりと思い出してみると、それは昔、重い撮影機材を抱えてとびまわっていた時に感じた痛みと同じものだったという。 「その頃は注射をばんばん打って、働いていたんですよね。そんなことを考えていて、ふと気づくと、私トイレに行ってなかったんですよ。どうしたんだろうと思って、4日目くらいにやっとトイレに行きたくなったから行くと、血便じゃなくて、軟便になってるんですよ。そして2週間くらいたつと、ちゃんとした硬い便が出たんですよ。もううれしくて、夫をよんだりしたりしてね」

由井さんはうれしさのあまりホメオパスの所に飛んでいき、自分もホメオパスになる決心をする。そしてホメオパシーの大学に入学、さらに大学院にまで進み、現在、日本でホメオパスを育てる『ロイヤル・アカデミー・オブ・ホメオパシー』を開校、また治療も行っている。

なぜ、サトウ玉が何にでも効くのか?

由井さんの経験でも書いたが、ホメオパシーの治療のほとんどはカウンセリング的なところがある。なにしろ1〜2時間もその人の家系から育ち方から、好みからすべてのことを問うていくのだから。 事実、由井さんも、「病のほとんどは心からくるんです」と語る。 病気はその人間の性格、生活、食、体質などすべての要素が絡み合って発生するわけだから、その人間のすべてを知った上で治療を行うのは当たり前のことだといえる。中国医療なども患者の全体像を把握して行うわけで、たとえば腫瘍だけを消すことを治療の目的として、切除や放射線治療を行う現代医療のやり方は、考え方によってはかなり乱暴なものだということもできる。

とはいえホメオパシーのやり方とレメディーの内容ではプラセーボ=偽薬効果ではないかという疑問が出てくるのだが、不思議なのは言葉が通じない、すなわちプラセーボ効果があり得ないペットや乳幼児にまで効果があることだ。

「ペットのアトピーだってよく観察してレメディーをあげれば治せますよ」と由井さんは言うが、なにしろサトウ玉なのだ。ただし、これで効けば副作用の心配は一切無いということにもなる。なにしろサトウ玉なのだから。 さて効果の理由だが、ホメオパシーでは物質の気=エネルギーが残っていると説明しているが、今、考えられているのは、希釈した「水」がなんらかの物質に関する記憶を保持しているのではないかということである。もっともこれもかなり大胆な仮説でしかないのだが。 とにもかくにも不思議な話である。だがホメオパシーが欧米で認められているのも事実なのだ・・・・・。