気の森 〔2002・10〕  由井寅子学長へのインタビュー 

気の森 2002年秋号
  由井寅子先生へのインタビュー

■不自然な自分自身に気付きを与える

日本のホメオパシーの第一人者である由井寅子先生は、いつもパワフルでバイタリティにあふれている。しかし15年前の彼女は、そうではなかった。ロンドンに住み、テレビ局の報道部で夜も昼も仕事に追われ、緊張と焦燥の中で日々を過ごし、打ち続くストレスから難治の病に倒れてしまった。 潰瘍性大腸炎。日に20回にも及ぶ下血と発熱。西洋医学の薬も効果を失い、ついに人工肛門になるかもしれないというところまで追い込まれた。そのとき出会ったのがホメオパシーだった。レメディを飲み、最悪の一時的悪化を迎え、抑えていた苦しみ、屈辱、悲しみといった感情がワッと噴き出し、それからは日1日と毎日が清々しくなって行ったという。心身の再生をみた後、彼女はそれまでの仕事に決別し、ホメオパシーの勉強に取り組んだ。

「ホメオパシーに出会う前の私は死にかけていた。症状というのは"お知らせ"なんです。『あなたの考え方や生活態度は間違っていませんか?』と教えてくれるのです。」
由井氏は「病気とはバイタルフォースの滞り、すなわち心身の"こだわり"」だという。誰かを嫌う、妬む、恨む、悲しむ、自己卑下する、あるいは傷、打ち身などから生じる体のショック……そうしたことがすべて"こだわり"となり、気が停滞してしまう。何年にも渡る心身のこだわりは、やがて物質である肉体に病的変質を招く。これが"疾病"である。

「ホメオパシーでは、病気は"急性病"と"慢性病"しかないんです」と由井氏。急性病は、こだわり(病気)が作られることによりバイタルフォースが部分的に大きくバランスを崩している状態で、ホメオパシーで簡単に治癒しやすい。ところがこの急性病の原因である病気を追い出すことなく、症状のみを抗生物質で抑えたり、感情を抑圧してしまうと、その病気を取り込むようにしてバイタルフォース全体が変形する。こうして急性症状は和らぐが、全体の病気となる。これが慢性病だという。

「急性症状も慢性症状もどちらもバイタルフォースのバランスの崩れからくる苦しみの叫びです。この症状を抑圧したところで何の解決にもならない。真のバランスを回復するには、こだわりとしての病気を流すしかないのです。」
人は生きるうえで生まれながらの個性を殺して、ガマンしたり、いい子になろうと無理をしたり背伸びをしたりする。また親の影響などから、ある事柄に対して怒りや失意を感じるように育ったかもしれない。また現在は薬害や公害、食品添加物等、不自然なものがあふれている。それらがすべて、バイタルフォースを歪める原因となっている。 つまり、心身の不自然なパターンを作りやすい環境になっているということ。そうしてどんどん心が弱くなり、小さな出来事にとらわれやすくなり、病気を追い出すこともできなくなる。そのときに役に立つのが、毒から作られる"レメディ"というものがもつ"毒のパターン"だ。 その人の"毒のパターン"と同じ"毒のパターン"をもつレメディを投与すると、一時的に毒……つまり不自然なパターンの増幅が起こり、自分が特定の毒のパターンをもっていることに気付かされるのだ。

「自分でないものを受け入れたら、それが偽りの自分、すなわち病気だ。自分では自分が見えなくなるから、出口のない真っ暗闇で堂々巡りしているようなもの。不自然な自分に気付いてはじめて、不自然なものを自分から流そうとする意志が働くんです。その気付きを与えてくれるのがレメディ。だから同種のレメディというのは、自分を映す鏡、自分を照らす光、迷路を上から見て出口を知る役目なんです。 もしこのとき、本物の毒を与えたら死んでしまう。だから、ホメオパシーのレメディは毒を希釈振盪して、毒物をまったく含まない高周波の情報に高めてあるのです。 低周波の薬は、物質体すなわち肉体に作用するのみで、例え症状が消えたとしても、気付きには至らない。だから再発もしますし、何度も同じような出来事に遭遇したりしたりもします。でも高周波のレメディなら、細胞レベルの心や感情にまで届き、症状のもととなった不自然なもの……こだわりを流してくれます。 私もホメオパシーをはじめて、子供の頃の自分が蘇ってきた。海で泳ぎ、畑からスイカを取って食べていた頃の自分……。テレビ局の仕事をして、自分らしさをだんだん削いでいたんですね。そんな自分は、満たされない、私自身ではない私だった。 今は本当の私らしさが戻ってきたよ。人はどう思うかしらないけど、これが本当の自分だからそれでいいんだ。」

■プラクティカルホメオパシーは玉ネギの皮むき

ホメオパシーの書籍などを読むと、「クラシカルホメオパシー」「プラクティカルホメオパシー」という言葉に出合う。 由井氏によると、「もともとのプラクティカルホメオパシーとは、アルゼンチンのホメオパス、アイシーアガー氏の作ったレイヤード(階層)メソッド(次頁図1)のことをいいます。それまでひとくくりにしていた病気を5つの段階(抑圧層、疾患層、基本層、根本層、マヤズム層)として捉え、臓器や組織レベルの問題にはコンビネーションレメディー(臓器や組織に特異的に適合する数種類のレメディーを一緒にしたもの)を与えたり、疾患には、ポーテンシーの低いレメディーをリピートし、玉ネギの皮をむくように外側からやっていく方法です。これは、それまでの1回に1種類のレメディを高いポーテンシーで処方しリピートしない、とするクラシカルのやり方に反するものでした。しかし、プラクティカルとクラシカルの本当の違いというのは、病気の捉え方にあり、アプローチの違いはそこから自ずと生じたものなのです。」

まず皮のいちばん外側は、薬や手術による症状の抑圧、あるいは、薬や手術そのものの害による病気の層。 たとえばアトピーでコーチゾンを使っていた場合、疾患の抑圧と薬害(副腎や腎臓の問題、鬱など)が表れている最上層に着手し、コーチゾンの掃除からしようと決めます。すると抑圧されていた体毒が出てくるので、メインのレメディの他に臓器や排泄をサポートするレメディも同時に使います。 そうすると次には、基本層の抑圧されていた感情や急性症状が出てきたりします。アトピーはたいてい母親との関係の問題がベースにあるので、それにマッチしたレメディを出します。心のこだわりが洗い流し終わってやっと、その人の中核(根本体質)とそれに関連する問題に至ることができます。 最後にマヤズムの掃除です。マヤズムそのものは吐き出させることはできませんが、マヤズムを掃除することで、根本体質で生きられるようになり、自分の個性を生き生きと生きられるようになってくるでしょう。 このように、上の層をとってやると本来の症状が戻ってきて、それにホメオパシーで対処していると本来の基本層の病気が出てきて急性症状になります。先ほどホメオパシーでは病気には慢性病と急性病の二種類しかないとお話ししましたが、プラクティカルは慢性病をスムーズに急性病に戻すための手法。慢性病から急性病への移行は、本来、十分なバイタリティが得られて自発的に起こるようすることが正しい方法です」

一方、クラシカルでは、基本層や根本層に照準を合わせ1Mなどのポーテンシーの高いレメディを処方し一カ月程様子を見る。由井氏は「それは現代の複雑な慢性病に対しては、いたずらに悪化させるだけで、なかなか治癒していかないばかりか、患者を不必要に苦しみの中に放置することになる」という。
「現代の慢性病は、症状をいじくり回してバイタルフォースが複雑になっていて、病気の中核になかなか気付けない状況にあります。また気付いても予防接種や薬害の壁、あるいは臓器の機能低下があって押し出せない状況があります。 ですからホメオパシーにも新しいアプローチが必要。本来、子供はみなクラシカルの手法で治癒していくのに、今は子供でさえ玉ネギの皮をむくように掃除してバイタリティを高めてやらなければならないことがあるんです。現代は心の問題を抱えている子供も多く、子供にこそホメオパシーが必要でしょう」

まるで異なるものであるかのような誤解を受けるクラシカルとプラクティカルだが、由井氏は、創始者のハーネマン自身がその生涯をかけて著したホメオパシーの教典「オーガノン」の最後の第6版中でプラクティカルアプローチの萌芽が見て取れるという。プラクティカルはクラシカルと相反するものではなく、ハーネマン自身が経験の積み重ねとともに何度もオーガノンを書き替えたように、複雑な病理形態をもつ現代において、クラシカルの中から必要に迫られて生まれた必然の手法といえるかもしれない。

■感情に従ったレメディの選び方

レメディは目に見える症状から選ぶこともできるが、ここでは由井氏から教わったさらに深い選び方を紹介しよう。それは、今現在の感情を最優先させる方法だ。 「人は疾病の苦しみに対しても新しいこだわりをつくります。それはちょうど疾病の上の層に相当します。たとえばイボがあって、イボに対する憎しみを持っていた場合、イボよりも先にそのこだわりに合うレメディを選択します。それは玉ネギの一番外側の病気です。今現在の感情からレメディを選択する方法は、階層メソッドと同じ考えが根底にあり、クラシカルにはないものです。もちろん、急性症状の場合には、基本層の病気、すなわちその人が生きてきたトラウマの部分が表れますから、症状とともにその感情を優先させるわけです。不安感が強いときはアーセニカム、母親のぬくもりが欲しいときはポースティーラといったように……。」  「カゼなひいたらまずはホメオパシー、あるいはおばあちゃんに教わった民間療法を試してみおうじゃないか。それでうまく行かないときや慢性病ならホメオパスのもとへ。一方で、必要と思ったら検査をし、高熱が続くときや急を要するケガは、迷わず医師の門を叩くべき。ヒポクラテスもアロパシーの有用性を語っているのですから、物事は柔軟に考えてください」

最後に由井氏は、ホメオパシーの本来の目的を語ってくれた。 「"同種"は本来の自分を取り戻す唯一のカギ。みんな成長とともに、受験や出世、失恋などで手かせ足かせをはめられ、がんじがらめになっている。ホメオパシーをやると、自由になると感じます。ホメオパシーは苦しみにあえぐ自分に気づきと解放をもたらし、自分を信じる力と自由を取り戻す方法。これこそが真の治療、ホメオパシーは人間を強くするんです。 そうすると、苦労があっても苦労と思わなくなる。いろいろな出来事に振り回されなくなる。私はみんなに強いバイタルフォースをもって、喜びに満ち、光って楽しんで生きてほしい。個性とは世界に二つとないあなたの生命、あなた本来のバイタルフォースの流れのこと。その生命を生き抜いてほしいのです」 最初から最後まで、熱くインスピレーションに満ちた話を語る由井氏。彼女の強さはホメオパシーによって再生された強いバイタルフォースの表現なのだ。