先見経済 〔2001・9〕 代替医療の現場から 

■先見経済 2001年 9月号 代替医療の現場から(第30回)

自然治癒力を引き出すホメオパシー by 医療ジャーナリスト 和田努

ホメオパシーが「代替医療の切り札」といわれるわりには、日本ではなじみが薄い。ヨーロッパでは多くのホメオパス(ホメオパシー療法家)がいて、治療にあたり、人々の間に深く浸透している。英国には「王立ロンドン・ホメオパシー病院」があり、王室の人たちもホメオパシー療法を受け、一般の市民にも支持されている。
由井寅子さんは数少ないホメオパスであり、わが国のパイオニアの一人。由井さんはロンドンを拠点にしてテレビの報道番組の仕事をしていた。ストレスフルな仕事のせいか、深刻な潰瘍性大腸炎にかかった。浴びるほど薬も飲んだが好転しない。そこでホメオパシーに出会い、奇跡的といってもいいくらいに完治した。それが機縁でホメオパスになることを決意。ロンドンのホメオパス養成学校である大学、大学院に学びライセンスを取得した。

「ホメオパシーは、"同種療法"と訳されますが、ある症状を起こさせる物質は、その症状を取り除く働きをする、という同種の法則を根本原理とする自然療法です。かつて日本の民間療法も同種の法則に基づいていました。たとえば、喉が痛いとき、喉がヒリヒリするショウガ湯を飲んだり、熱が出ると布団をかぶって熱くしたりするのはその名残です」(由井さん)

同種の法則の考え方は、古代ギリシャの医聖ヒポクラテスも持っていた。それゆえにヒポクラテスをホメオパシーの元祖であるという人もいる。 いまから200年前、ホメオパシーを体系化したのはドイツの医師サミュエル・ハーネマンだ。マラリアに効くキナの皮を飲み込んでみたところ、一時的に発熱、悪寒、痛みなど、マラリアと同じような症状が出ることを発見した。 「毒をもって毒を制する」という考え方である。

「火傷をしたら熱い蒸気をかけるほうが治るのです。しかし普通は水で冷やします。ホメオパシーはカンサリスというレメディ(ホメオパシーで使う砂糖玉)を与えます。スペインにいる昆虫で、触ると火傷のように火ぶくれになりヒリヒリ痛みます。これが同種的に働いて治癒するのです」(由井さん)

レメディは、鉱物、植物、動物、病原体などをすりつぶしたもの。現在3000種類あるという。ある意味では"毒"といえる。だから毒性のないように10の60乗倍も希釈する。毒性は限りなく薄められて、その物質のスピリットがレメディになるという。スピリットは糖衣に包まれた直径3ミリばかりの小さな玉になっている。

「レメディは、生きる力であるバイタルフォースに働きかけ、自然治癒力にスイッチを入れるんです。いわゆるクスリとは違います」(由井さん)

西洋医学は対症療法を行う。症状を抑圧する手法はアロパシーといい、ホメオパシーとは対極にある。症状を押さえ込むやり方は、病気は残ったまま何も解決していないのだという。病気の原因は心にある。診察は心の襞(ひだ)まで探っていく。初心の問診には数時間も費やすこともある。由井さんを訪れる患者は、アトピー性皮膚炎、夜尿症、登校拒否……西洋医学が苦手とする病気の人が多い。 代替医療の効用に光をあててきたアンドルー・ワイル博士は、「アレルギー、慢性間接リウマチ、婦人科疾患など、様々な疾患に効果がある」と大きな評価を与えている。 日本人に馴染みの薄いホメオパシーに、まなざしを向けてみる必要はありそうである。