食と健康
|
|||||
◇クエン酸の効果◇ 最近、やたらと健康飲料のブームですが、特に「クエン酸入り飲料」というのを目にすることが多いです。 単純なところで言うと「梅干果汁入り飲料」とかになりますが、どうしてこんなにクエン酸が人気があるのでしょうか? もともとクエン酸は、レモンの成分として発見されたのですが、柑橘類、梅干し、お酢などに広く含まれるスッパイ成分です。 今回は、クエン酸をめぐる「人々の期待」と「実像」を考えてみます。 ●乳酸とクエン酸の関係は? クエン酸の効能として、疲労回復の効果に期待する向きが多いようですが、実際に効くものなのでしょうか? 疲労回復との関係が注目され、期待されるのは、クエン酸が疲労物質と呼ばれる「乳酸」を減らしてくれるのではないかと考えられるからです。 実際にWeb上にも、「クエン酸を摂取すると、疲労物質の乳酸が取り除かれるので、疲労回復に役立つ」という説明がされているサイトもあります。 しかしどうも、このような説明の仕方は正しくないようです。 近年の研究では、乳酸が筋肉内にたまることと筋肉の疲労は無関係で、むしろ乳酸は、筋肉の疲労を和らげる方向に働くのではないかと考えられるようになっています。 そこで日本の疲労研究のリーダーに伺うと、やはり「乳酸は疲労の原因物質、というのは間違い」と仰いました。 実際に研究者の実験でも、人が運動を開始すると乳酸の量は増加しますが、運動をずっと続けて行くと、その後乳酸は減ることがわかっています。 もしも乳酸が疲労の原因になるなら、運動量に比例して乳酸量の増加が続くはずですが、実験結果はそうならないそうです。 したがって結論としては、乳酸がたまって筋肉疲労が起こるという昔からの通説は、間違っていたことになりそうです。 そうすると、クエン酸は疲労回復に効果がないのでしょうか? ●クエン酸回路(サイクル)の働きと疲労回復 私たち人間が日々の活動を行い、生命維持のためにシステムが休みなく活動する(例=心臓が動く、呼吸を行う)ために、何が必要とされているかと言えば、食事から接種される栄養素です。もちろん、水分も必要です。 さてここで、学校の生物の授業で習った知識を思い出してみると、タンパク質はアミノ酸、炭水化物はブドウ糖、脂肪はグリセリンへと分解され、エネルギーなどに転化するように教わった(?)気がしますが、今回説明のために、有名な「クエン酸回路」というものを登場させます。 このクエン酸回路が学問上いかに重要な意味をもつかと言えば、発見者のH.A.クレブス博士が、このクエン酸回路を発見した功績から、ノーベル医学生理学賞を受賞(1953年)しています。 なお、この回路(サイクル)は、クエン酸の表記(Tri-Carboxylic Acid)から「TCAサイクル」と呼ばれることもあります(博士の名前から「クレブス・サイクル」とも呼ばれる)。 <脂肪とは?> 脂肪とは、脂肪酸とグリセリンの「エステル」のうち、常温において固体のものを意味する。私たちの皮下組織や筋肉などに貯蔵されていて、エネルギー源として利用される。 <クエン酸回路とは?> 私たちが食事から摂取した炭水化物は、体内で分解されてブドウ糖(=グルコース:動植物のエネルギー代謝の中心に位置する重要な物質)になります。 そのブドウ糖は、体内で燃焼してエネルギーに変換される時に、中間物質であるピルビン酸というものを生じます。 ピルビン酸は、さらにアセチルCoA(コーエー)という物質となり、私たちの活動エネルギーを生み出すための重要な働きをします。 そして実は、このアセチルCoAは、オキザロ酢酸という物質と結合してクエン酸になり、クエン酸回路に入ります。 回路のなかを回りながら、クエン酸はさらに変化を遂げつつエネルギーを生み出すのです。 結局、サイクルの最後にオキザロ酢酸に変化し、またアセチルCoAと結びついて、出発点のクエン酸に戻るのです。 こうして、クエン酸で出発してクエン酸に戻るサイクルを循環しながら、エネルギーを生み出して行くのです。 ただし、エネルギー源のアセチルCoAが不足して来ると、クエン酸回路はうまく回らなくなり、当然のことながら私たちはエネルギーが切れて「バテた」状態になるのです。 だから、こういうバテた状態の時にクエン酸を摂取すれば、クエン酸回路にエンジンがかかり、活動エネルギーが生まれる(元気になる)わけです。 まさにクエン酸は、人間の最も基本的な代謝経路である『クエン酸回路』の基幹物質と呼べるのです。 ●乳酸の働きは? このように、私たちがバランスの取れた栄養補給をしていれば(まっとうな食事をしていれば)、クエン酸回路が支障なく回転して活動エネルギーを生み出し、体力を維持し、さらに体内の状態を弱アルカリ性に保つ等の働きもしてくれます。 さて、乳酸の話題に戻ります。乳酸が、従来言われていたような疲労物質ではないらしいことを前述しました。 では、疲労物質ではない乳酸は、いったい何者なのでしょうか? 私たちが運動すると、ブドウ糖の一部は乳酸になりますが、この乳酸がまた変化してアセチルCoAになるようです。 ということは、乳酸もまたエネルギー源と言っていいわけです。 したがって、私たちがクエン酸を摂取すると、クエン酸回路のアクセルを踏み込むようになり、サイクルはガンガン回って、乳酸をもエネルギー源に組み込んで行くと思われます。 このページのTOPへ |